7月14日(土)
私、内田ひろきが所属する柏市南部9条の会の主催で学習会を開催し、東京慈恵会医科大学教授で、憲法学者の小沢隆一先生から話を伺った。
以下に資料を抜粋。
なぜ、いま平和憲法の改悪を急ぐのか
どこをどう変えるのか、その危険性を考える
はじめに
・「3・11」が憲法と社会にもたらした、なお山積する諸課題のなかで
・ひたひたとすすむ憲法改悪の動き
①民主党政権の安保・防衛政策
②憲法審査会の始動(2011.1020~)
③自民党修正新憲法草案(20124.27決定)
④大阪維新の会 橋下大阪府政一大阪市政での違憲施策の数々 「維新八策」
・私たちの課題
1 危険な民主党政権の安保・防衛政策
(1)普天間基地問題 迷走のあげくに日米合意に帰着
(2)「武器輸出3原則」見直し問題
・2011.12.27官房長官談話
3原則そのものを維持した上で、①平和貢献・国際協力に伴う案件、②日本と安全保障面での協力関係にある国との国際共同開発・生産に関する案件、について武器輸出解禁
・アメリカだけでなくイギリスとも軍事生産協力?
(2012.4.10キャメロン首相訪日)
・能動的な「平和創造国家」?
・武器輸出三原則を見直して「防衛装備協力」や「防衛援助」を進めることも、「平和創造 国家」になるための有効な「手段」?
・防衛産業界の要求への露骨を迎合、そこには「自衛隊の装備の受注にのみ頼っていたのでは、日本の防衛産業は生き残れない」という腹黒いホンネが…
・日本の防衛産業の現状
(世界の軍事産業と比べて)低い防衛生産への依存率(民生部門との「兼業」)
自衛隊の装備予算の削減の中で、倒産・撤退が多発
自民党政権時代の防衛産業は超「保護」部門
・なぜ、民主党政権は、武器輸出3原則の見直しに執心するのか?
新自由主義の民主党政権は、日本の防衛産業を「世界に価する軍事産業」に育てようとし ようとしている。そこに活路を見いだそうとしている。
自民党よりも危険な民主党
(3)「基盤的防衛力」構想の放棄
・「防衛力の役割を侵略の拒否に限定してきた『基盤的防衛力』概念は有効性を失った」
・「基盤的防衛力」構想とは?
1976年の最初の「防衛計画の大綱」以来一貫して踏襲
「わが国に対する軍事的脅威に直接対抗するよりも、自らが力の空白となってわが国周辺地域の不安定要因とならないよう、独立国としての必要最小限の基盤的な防衛力を保有するという考え方である」(22年版防衛白書)
・「基盤的防衛力」構想登場の背景
当時の防衛事務次官、久保卓也を中心に
米ソデタント・米中接近 日本周辺地域での「大規模な武力紛争の可能性」は減少
石油危機による高度成長経済の軌道修正、防衛費の大幅増額は財政的制約から困難
「防衛のあり方に関する国民的合意」の確立
・自衛隊が果たすべき任務一「限定的かつ小規模な侵賂までの事態に有効に対処」
・要するに「基盤的防衛力」構想は、「専守防衛」という概念と密接に関連
それを放棄するのは、自衛隊の基本性格の変更を意味する
(4)集団的自衛権の容認と改憲への道
・日米安保体制の一層円滑な機能
・自衛権行使に関する従来の政府の憲法解釈の再検討
①日本防衛事態に至る前の段階での米艦の防護
②米国領土に向かう弾道ミサイルの迎撃などのために
・国際平和協力活動における自衛隊の武器使用基準の緩和
・国際平和活動に関する基本法的な恒久法(いわゆる自衛隊派兵恒久法)の制定
2 憲法審査会の始動
(1)憲法審査会始動までの経過
2007年5月 改憲手続法成立
2009年6月 衆議院憲法審査会規程強行
2009年9月 政権交代
2010年7月 民主党菅直人首相 参院選敗北 ねじれ国会再現
2011年2月22日 参院民主党、憲法審査会規程、自民党との協議入り
2011年3月11日 東日本大震災、福島第一原発事故発生
2011年5月 参院憲法審査会規程強行 読売など緊急事態条項改憲主張
2011年8月 中山太郎「緊急事態に関する憲法改正試案」発表
2011年10月 両院憲法審査会委員選出
2011年11月 憲法審査会始動
2012年4月 自民党新憲法草案修正版
(2)両院憲法審査会の活動経過
衆議院(2011年10月21日・通算第1回)~役員選出~
参議院(2011年10月21日・通算第1回)~役員選出~
衆議院(2011年11月17日・通算第2回)~中山太郎前衆議院憲法調査会会長に対する参考人質疑~
参議院(2011年11月28日・通算第2回)~関谷勝嗣元参議院憲法調査会会長に対する参考人質疑~
衆議院(2011年12月1日・通算第3回)~前回の参考人からの報告について~
参議院(2011年12月7日・通算第3回)~自由討議~
衆議院(2011年12月9日・通算第4回)~請願の審査~
参議院(2011年12月9日・通算第4回)~請願の審査~
参議院(2012年2月15日・通算第5回)~中山太郎前衆議院憲法調査会会長に対する参考人質疑~
衆議院(2012年2月23日・通算第5回)~成人年齢の見直しについて~
参議院(2012年2月29日・通算第6回)~成人年齢の見直しと公務員の運動規制について~
衆議院(2012年3月15日・通算第6回)~公務員の運動規制について~
衆議院(2012年3月22日・通算第7回)~成人年齢の見直しについて~
衆議院(2012年4月5日、通算第8回)~国民投票制度について~
参議院(2012年4月11日・通算第7回)「東日本大震災と憲法」のうち、震災と人権保障について/【参考人】「ふんばろう東日本支援プロジェクト」代表・早稲田大学大学院商学研究科専門職学位課程(MBA)専任講師・西條剛央/学習院大学法学部教授・櫻井敬子/大阪大学大学院高等司法研究科教授・棟居侠行
参議院(2012年4月25日・通算第8回)「東日本大震災と憲法」のうち、大震災と統治機構について/【参考人】双葉町長・井戸川克隆/東北大学大学院法学研究科教授・牧原出/京都大学法科大学院教授・大石眞
参議院(2012年5月16日・通算第9回)「東日本大震災と憲法」のうち、大震災と国家緊急権について/【参考人】上智大学法科大学院教授・高見勝利!
駒澤大学名誉教授・西修
衆議院(2012年5月24日・通算第9回)日本国憲法の各条章のうち、第1章の論点
参議院(2012年5月30日・通算第10回)「東日本大震災と憲法」(参考人質疑の概要報告及び討議)
衆議院(2012年5月31日・通算第10回)日本国憲法の各条章のうち、第2章の論点
衆議院(2012年6月7日・通算第11回)日本国憲法の各条章のうち、第3章の論点
(3)両院審査会の審議での注目すべき問題点
(a)広範な憲法審査会の権限
①日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的な調査←「調査」と称して改憲機運の盛り上げ
②憲法改正原案の審査
←憲法改正原案を審査会の場で作成もできる
③日本国憲法に係る改正の発議又は国民投票に関する法律案等の審査
←改憲手続法の「宿題」の審査
(b)東日本大震災を口実にした「非常事態」規定導入の改憲論
(ア)「震災で国政選挙ができなかった場合」のための改憲?
・二院制 参議院の緊急集会(54条2項)の無理解
(イ)政府の「非常事態権限」規定の導入は必要?
・それがあれば津波は止められるのか?
・原発事故での「初動対処」の混乱はなぜ生じたのか?
(ウ)「非常事態権限」規定の導入論のねらいは9条改憲
(C)改憲手続法の「宿題」の審議が始まる
・18歳投票制
・公務員・教員による投票呼びかけ運動の規制 現行法との関係
・それ以外にも「宿題」は山積み
3.自民党修正新憲法草案
2012.03.02 憲法改正推進本部役員会 修正新憲法草案了承
2012.04.28 最終案確定予定
(1)ウルトラ復古調
・前文一①長い歴史と固有の文化を持ち…天皇を戴く国家 ②伝統の継承・天皇は日本国の元首
・国民に国旗・国歌尊重義務
(2)立憲主義の否定
・国民に憲法「尊重」義務 公務員は憲法「擁護」のみ
(3)平和主義の改変
・前文から平和的生存権を削除
・自衛権の発動、国防軍の明記
・国外緊急事態の際の在外国民の保護
・「緊急事態」規定の創設
(4)憲法改正の要件緩和
・国会議員の過半数による発議
4・大阪維新の会の「維新八策」(公約)
2012.07 「維新八策」(公約)確定?
(1)「世代間対立」を煽る仕掛け
・日本再生のためのグレートリセット
・給付型公約から改革型公約へ
・世代間格差の是正
(2)強権的な権力行使が可能な統治構造
・決定でき責任を負う民主主義
・衆議院の優越の強化 廃止も視野に入れた参議院改革・首相公選制
・国の政治力強化のため国の役割を絞り込む 道州制
←「決められない政治」の原因は何? 選挙制度に問題あり
(3)福祉施策の削減
・「既得権と闘う」成長戦略
・生活保護、就労義務の徹底
・混合診療
・公務員削減
(4)日米同盟基軸の外交・防衛
・9条についての国民投票
(5)憲法改正の要件緩和
・96条改正先行論
むすびにかえて
民主党政権の安保・防衛政策は、日米安保を絶対視する対米屈従と軍事生産の拡大に固執する大企業いいなりという特徴をもっており、この特徴は、自民党政権のそれと変わらない。
それどころか、自民党政権の下で生まれ、今日まで受け継がれてきた「基盤的防衛力」構想や「武器輸出三原則」などの見直し、すなわち放棄を、「政権交代」という機会をとらえて果たそうとしているようにも見えるところから、過去の経緯を「しがらみ」として引きずらざるをえない自民党政権よりも、かえって危険な側面があるともいえる。
しかし、国際平和を真に希求するのであれば、軍事同盟からの脱却こそが求められる。
国民生活の擁護のためには、米軍への「思いやり予算」を含む軍事費の削減と民生部門予算の増額による経済・財政再建こそが避けられないはずである。
東日本大震災からの復興、原発事故の補償と生活の立て直し、再生可能エネルギーへの転換が求められる今こそ、安全保障政策の根本的転換と大幅な軍事費の削減、その環境作りが必要である。
そして、その可能性は十分にある。日本国民は憲法9条を一貫して強く支持してきたし、それによって戦後の軍事産業は、アメリカのような「軍産複合体」の形成が阻止されてきた。
すなわち、「後戻りできない地点」には至っていない。
そのアメリカもまた、その軍事戦略の見直しを、さまざまな事情の下で余儀なくされている。
その底流には、国際社会の平和世論の圧力がある。そうした動きを促進するために、私たちのなすべきことは、まだまだたくさんある。
「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」
この平和的生存権の理念は、「誰かの犠牲の上によって立つ幸せなどはありえない」ということを意味する。
この理念に照らしたとき、日本の原発政策や安全保障政策は、根本的な見直し、変更が求められる。
特定の地域に原発立地を押しつけ、またその受け入れを経済・財政的に誘導してきた政・財・官・学が一体となった「原発利益共同体」の支配、不安定な就労条件の労働者に原発の保守・点検、修理、事故の復旧などの現場労働という人体に重大な影響を及ぼす危険な業務を押しつけている実態、日本に駐留する米軍とりわけ住宅地に隣接し「世界で一番危険な基地」とも呼ばれる沖縄の普天間基地に駐留する米海兵隊を「抑止力」だとして、名護市辺野古地区への移設を、地元の名護市の反対にもかかわらず普天間基地閉鎖の条件としている日米両政府。
これらは、いずれも、「誰かの犠牲の上によって立つ幸せなどはありえない」という理念に真っ向から反するものといえる。
こうした現実の政治や社会にひそむ問題を、憲法の視点から点検し、それを国会や政府に改めさせ、問題を克服していく努力が、私たち国民に求められている。