重要土地調査規制法案の撤回を求める緊急声明

6月6日(日)
私、内田ひろきがスタッフを務めるエナガの会が賛同し、重要土地調査規制法案の撤回を求める緊急声明を挙げた。
今国会では、重要土地調査規制法案を何が何でも廃案に追い込みたいものである。
声明文を以下に掲載します。

重要土地調査規制法案に関する緊急声明
憲法と国際人権規約に反する「重要土地調査規制法案」の撤回を求めます

はじめに
日本の社会における表現の自由の侵害、政府に関する情報の秘匿化などに疑問を持つ多くの NGO が、国連自由権規約委員会へのオルタナティブレポートを提出し、委員会の勧告 を求め、その勧告の実現を日本政府に求めていくことを共同の目的として表現の自由と開 かれた情報のための NGO 連合(NCFOJ)を結成しました。
すでに2020年9月30日に共同レポートの第一弾を自由権規約委員会に提出しています。
国連自由権規約委員会の日本審査は、世界的な新型コロナ感染拡大のために大幅に遅延 しています。
そうした中でも、日本社会における表現の自由の侵害、政府に関する情報の 秘匿化などの状況は悪化しているといわざるをえません。
NCFOJ 内部で、追加レポートの 作成を検討しています。
その検討過程で、今般国会に提出された「重要土地調査規制法案」には、人権保障上、特に表現の自由、市民活動の自由、プライバシー権、知る権利と の関係において、看過することのできない問題点が含まれていることに気づきました。
何としてもこの法案は成立させてはならない、その思いから、NCFOJ としての追加レポート作成とは別個に、同様の問題意識をもつ NCFOJ 内外の市民団体の連名で、急遽、声明を発することとしました。
法案の撤回と廃案を求める理由を以下に述べます。

第1 立法の経緯と法案の概要
本年3月26日、日本政府は「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案」(重要土地調査規制法案)を閣議決定し、国会に提出しました。
この法案は、昨年12月10日に自民党政務調査会がまとめた「安全保障と土地法制に関する特命委員会」の提言をもとに、閣法として提出されたものです。
法案提出にあたって、当初は連立与党の公明党は「まるで戦時下を思わせる民有地の規制」(漆原良夫公明党前 議員の「うるさん奮闘記」より)などとして強い難色を示していましたが、法案の微修正 によって個人情報への配慮条項を付加すること、指定については、「経済的社会的観点」 から留意することを法文上に盛り込む方向などが確認されたために、法提案に応じた経緯がありました。
法案では、基地など安全保障上の「重要施設」周辺概ね千メートルの区域や「国境離島等」を「注視区域」または「特別注視区域」に指定して土地・建物の利用状況を調査し 重要施設や国境離島等の「機能を阻害する行為」に対し行為の中止または「その他必要な措置」を勧告・命令することを定めたものです。
命令に従わない場合は懲役刑や罰金刑を課すことができます。
「特別注視区域」に指定されると、土地売買等の取引の際は事前に 取引の目的等の報告が求められ、虚偽の報告をしたり、報告を怠った者は同じく処罰されます。

第2 立法事実は存在しない。不必要である
前述のように、法案の提出作成に至ったきっかけは、外国人・外国政府の基地周辺や国境離島での土地取得に規制を求める自治体議員や自民党議員の要望でした。
しかし、実際に は外国人の土地取得によって基地機能が阻害される事実(立法事実)が存在しないことが 明らかになっています(2020年2月25日、衆院予算委員会第8分科会)。
にもかかわらず、法案は広く国が定める「重要施設」周辺の土地・建物の所有者や利用 者を監視し、土地・建物の取引や利用を規制するものになりました。
この法案に対して、市民の財産権を侵害し土地取引や賃貸を伴う経済活動を停滞させるとの懸念の声があります。
しかし、本声明では、それにも増して広く市民が監視され、市民の調査活動・監視活動 等が萎縮・制限されることにより、表現の自由、市民活動の自由、プライバシーの権利、知る権利が大きく損なわれることに警鐘を鳴らしたいと思います。

第3 法案の核となる概念や定義がいずれも極めてあいまいである
この法案は、法案中の概念や定義が曖昧で政府の裁量でどのようにも解釈できるものに なっています。
まず、注視区域指定の要件である「重要施設」のうちの「生活関連施設」 とは何をさすのかは政令で定め、「重要施設」の「機能を阻害する行為」とはどのような 行為なのかも政府が定める基本方針に委ねています。
重要施設には自衛隊と米軍、海上保安庁の施設だけでなく、「その機能を阻害する行為 が行われた場合に国民の生命、身体又は財産に重大な被害が生ずる恐れのあるもので政令 で指定するものを含む」とされており、原発などの発電所、情報通信施設、金融、航空、 鉄道、ガス、医療、水道など、主要な重要インフラは何でも入りうる建付けの法案となっています。
調査の対象者のどのような情報を調べるのかについても政令次第になっています。さらに調査において情報提供を求める対象者としての「その他関係者」とは誰か、勧告・命令 の内容である「その他必要な措置をとるべき旨」とはどのような行為を指すのかについては、政令で定めるという規定すらなく総理大臣の判断に委ねられています。
市民の自由と 基本的人権を阻害する可能性のある、市民に知られては都合の悪い規定は、法文中ではなく政府がつくる基本方針や政令、総理大臣の権限で決められるようにしているのです。
刑 罰を構成する要件規定が法律に明示されないということは、刑事法の基本原則すら満たしていないものであり、刑罰の構成要件の明確性を求めている憲法31条、自由権規約9条に も違反するものであると言わなければなりません。
また、刑罰の対象となる行為が明確となっていないため、表現の自由・市民活動の自由 に対して萎縮効果を及ぼすこととなり、調査・監視活動が阻害され、憲法21条・自由権規 約19条にも違反するおそれがあります。

第4 法案の具体的な問題点
この法案が成立するとどのようなことが起こりうるか、問題点を以下にあげます。
1.法案7条により、重要施設周辺の土地・建物利用者の個人情報はことごとく収集され 監視されることになる
「施設機能」を阻害する行為やそれをするおそれがあるかどうかを判断するためには、その者の住所氏名などだけでなく、職業や日頃の活動、職歴や活動歴、あるいは検挙歴や 犯罪歴、交友関係、さらに思想・信条などの情報が必要となります。
すなわち、重要施設3の周辺にいる者はことごとくこれらの個人情報を内閣総理大臣に収集され、監視されることになるのです。
法案3条は、「個人情報の保護への十分な配慮」「必要最小限度」などと 規定していますが、これらの気休めともいえる規定が実効性のある歯止めとなる保証はどこにもありません。
このような法案は思想・良心の自由を保障した憲法19条、プライバシーの権利を保障した憲法13条、自由権規約17条に反すると言えます。
2.具体的な違法行為がなくても特定の行為を規制できる
「重要施設」の周囲や国境離島に住んでいるか仕事や活動で往来している者に対して、政府の意向で調査でき、「機能を阻害する恐れ」があるとの理由で行動を規制できるようになります。
しかもその規制は命令に従わなければ懲役刑を含む罰則も含むという苛烈なものです。
このような法案は、居住・移転の自由を定めた憲法22条、表現の自由を保障した憲法21条、自由権規約19条に反するものと言えます。また、刑罰の明確性の原則(憲法 31条、自由権規約9条)にも違反することとなります。
3.「関係者」に密告を義務付け、地域や活動の分断をもたらす
法案8条は「重要施設」周辺や国境離島の土地・建物の所有者や利用者の利用状況を調査するために、利用者その他の「関係者」に情報提供を義務付けています。
「関係者」は従わなければ処罰されますので、基地や原発の監視活動や抗議活動をする隣人・知人や活 動協力者の個人情報を提供せざるを得なくなります。
これは地域や市民活動を分断するものであり、市民活動の著しい萎縮、自己規制にも繋がります。このような法案は、憲法19 条と自由権規約18条が絶対的なものとして保障している思想・良心の自由を侵害するものです。
また、市民の団結を阻害するという意味において、集会結社の自由(憲法21条、 自由権規約21条・22条)に対する侵害のおそれもあります。

4.事実上の強制的な土地収用である
法案11条によれば、勧告や命令に従うとその土地の利用に著しい支障が生じる場合、当該所有者から総理大臣に対して買い入れを申出ることができ、総理大臣は特別の事情がない限り、これを買い入れるものとされています。
命令に従わなければ処罰されることになり、やむなく買い入れを申出なければならないのであれば、これは、法案10条3項による 土地収用法の適用ともあいまって、重要施設周辺の土地の事実上の強制収用であると言えます。
土地収用法は戦前の軍事体制の反省に立ち、平和主義の見地から、土地収用事業の 対象に軍事目的を含めていませんでした。
軍事的な必要性から私権を制限する法案は憲法 前文と9条によって保障された平和主義に反し、さらには憲法29条によって保障された財産権をも侵害するものです。

5.不服申立ての手段がない
権利制限を受ける市民は、本来それらの指定や勧告・命令に対して不服申立てができるようにすべきですが、法案にはそのような不服申し立ての手段や方法は定められておらず、憲法31条に定められた適正手続きの保障すら著しく侵害するものです。

第5 法案成立が及ぼす影響―私たちは、この法案の撤回と廃案を求めます
1.膨大な量の個人情報の入手・蓄積・分析のために情報機関が強化される この法案が成立した場合には、実際の調査では、聞き込み、張り込みはもちろん、警備 公安警察が現地で調査し収集して所有する個人情報も入手されることになるでしょう。
その収集や分析には相当な人手が必要であり、内閣情報調査室などの市民監視のための情報4機関の大幅な拡充や機能強化につながっていく恐れがあります。

2.基地や原発の調査・監視行動も規制の対象とされる 米軍機による騒音や超低空飛行、米兵による犯罪に日常的に苦しめられている沖縄や神 奈川などの基地集中地域では、市民が自分たちの命と生活を守るために基地の監視活動や 抗議活動に長年取り組んできました。
また、ジャーナリストや NGO もこれらの施設について調査活動を行い、その問題点を社会に明らかにしてきました。
自衛隊のミサイル基地や 米軍の訓練場が新たに作られたり、作られようとしている先島諸島や奄美、種子島でも同じ状況に置かれています。
このような、自分たちの命と生活を守る当たり前の基地調査行 動・監視行動ですらこの法案は規制の対象にしているといえます。
また、その規制は南西諸島や基地周辺に限らないことは前述したとおりです。重要施設は、原発をはじめ放送局、金融機関、鉄道、官公庁、総合病院などの重要インフラの周辺にまで拡大される可能性があります。
大都市圏に住むほぼすべての人が監視と規制の対象 となる可能性を含んでいるのです。
このような法案は、市民の多様な表現の自由及び市民の知る権利を保障した憲法21条、 自由権規約19条に反するものと言えます。

3. 法案は戦前の「要塞地帯法」の拡大版の再来であり、憲法と国際人権法を著しく侵 害するもの。廃案・撤回するしかない
すなわちこの法案は、憲法改悪の「緊急事態条項」を先取りする形で市民の監視と権利 制限を日常化、常態化させる法律なのです。
そのような意味で、この法律は、戦前の社会 を物言えない社会に変えた軍機保護法・国防保安法とセットで基地周辺における写真撮影 や写生まで厳罰の対象とした要塞地帯法(明治32年7月15日法律第105号)の拡大版の再来だといえるでしょう。
この法律が成立すれば、市民と市民団体の活動に対する萎縮は限りない連鎖を生み、戦前のように、日本社会を沈黙の支配する社会へと国が変えてしまうことが再現されることすら予想されます。
安保関連施設を厚いベールで隠し、一切の批判を封じることから、戦争に向かう政策を補強する戦争関連法の一環であると言わざるをえません。
このような法案は決して成立させてはなりません。
私たちは政府に対して、日本国憲 法と国際人権規約に真っ向から反する、問題の多いこの人権侵害法案を撤回するよう求めます。

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